- 茅晃子です。突然ですが見知らぬ男の人たちに囲まれています。
- 「……胸でけー」
- 髪の長い男の子が呟きました。どこかで見たことがある気がします。
- 「……茅だよな?」
- 「はい」
- 「茅だけど限りなく茅から遠いって言うか……」
- 長身の男の子と、細身の男の子が目を合わせました。彼らもどこかで見た気がします。
- すると、隣からシャッター音が聞こえました。
- 「ハイ、晃弘。最近流行の女体化?」
- 「申し訳ありません。私は流行りに疎くて……」
- 「茅と同じだ。どこから来たの? 茅の親戚?」
- 私と視線の高さを合わせて、細身の男の子が微笑みかけてくれました。
- その笑い方に、ふと友人の名前を思い出したのです。
- 「……はるひさん?」
- 「え? 俺は春人だよ」
- 「そうですよね……。はるひさんという女性の友人がいるんですが、なんとなく雰囲気が似ているんです」
- 春人さんは複雑そうに笑顔をひきつらせました。
- 彼の頭をぽんぽんと叩きながら、長身の男の子が笑っています。
- 「聞いたか、白峰。女の友達にそっくりだってさ。さすがマリア様だな」
- 「ボーイッシュな女の子なんだよ」
- 「顔が瓜二つという訳ではなくて……。雰囲気とか話し方が似ているんです。春人さんだけではなく、他の方も……」
- 「……どういうこと?」
- 「何と言えばいいのかわかりませんが……。例えて言えば、違う人が描いた同じもののような、鏡の世界を線対称にした別の空間……」
- 「ああ、この例え話の下手さ加減、完全に茅っぺだよ」
- 「俺もそう思う。奇想天外な展開の中一人だけペースを崩さないとことか」
- 「晃子と言ったな。詳しく説明してみろ。例え話は抜きで」
- 彼らの要求を受けて、私は話し始めました。
- 朝起きたら、知らない場所で目が覚めたこと。
- 私の友人たちに彼らが良く似ていること。
- 私の友人たちの、名前や性格など。
- 「どう考えても、その女の子俺じゃん……!」
- 一番ショックを受けていたのが瞠さんでした。
- 頭を抱えて飛び上がった後、ソファの上でごろごろと身悶えています。
- 「いいなあ、女の子の俺……。きっと幸せなんだろうな……。せいちゃんも優しいだろうし、ていうか誠二以前にどっかの優しいお母さんたちに引き取られてただろうし……」
- 「瞠……。瞠は今のままでもかわいいよ……」
- 「ありがとう、ハルたん……。あああ、くそお羨ましい……」
- 彼は女性願望があったようです。一言で言えば変態です。
- 「俺のことは? そのはるひって子も聖母って呼ばれてるみたいだけど……」
- 「ええ。はるひさんは学園で唯一の処女なんです」
- 「…………」
- 凍りつく春人さんの背後で、咲さんが真顔で言いました。
- 「春人はおぼこ」
- 「ちょっと待ってよ! 俺が処女とかありえないよ。俺が女ならかわいいに決まってる。絶対ビッチ」
- 「ビッチとか自分で言うの止めろよ、白峰!」
- 「なんで? そうやって清楚なイメージ押し付けるの止めてくれる?」
- 「いやいや……」
- 「今年の俺はワイルド&スリリングだよ」
- 「本当に悪いが口だけなんだよ」
- 春人さんが煉慈さんをクッションでぶん殴りました。
- 「僕はどう? 援交とかしてる?」
- 「ゆきさんですか? いえ……」
- 「なにやってるの、女子高生」
- 咲さんは残念そうに舌打ちしました。基礎を押さえてこない生徒に苛立つ教師のようでした。
- 春人さんを掴まえながら、煉慈さんが尋ねます。
- 「俺は? 俺に似た女はいないのか?」
- 私はしばらく考えて、首をたてに振りました。
- 「はい」
- 「なんで俺だけいないんだよ」
- 「人数的には、りんさんかなと思うんですが……」
- 「どんな女だ」
- 「ツインテールの携帯小説家です」
- どっと会場がわきました。
- 「れんれんー! 女の子のれんれん抱きしめてあげたいー」
- 「ツインテールか……。辻村は女の子になっても嗜好がレトロなんだね」
- 「レトロって何だよ、おい。言いたいことあるなら言えよ」
- ひとしきり笑った後、春人さんが首を捻りました。
- 「でも……この娘がこっちにいるなら、茅は女の子に囲まれてるのかな」
- 「羨ましい」
- 咲さんはまた舌打ちをしました。
- 「茅っぺは楽しんでないと思うけどなあ。女子がいてもウハウハしたりしねえし」
- 「わからない。春人の女バージョンがいるんだよ」
- 春人さんを見上げて、咲さんが呟きました。
- 「はるひはもう、マリアって呼べない体にされてるかもね」
- 「止めてよ、なんかやだ!」
- 春人さんは青ざめました。
- 「みくるかもしれない」
- 「いいじゃん、茅っぺ彼氏……。女の俺おめでとう……」
- 「茅でいいわけ? 俺にしなよ」
- 「ハルたん、結婚して……」
- 「僕は?」
- 「三十すぎて買い手が付かなかったら嫁ぎます」
- 瞠さんはお嫁さんになりたすぎです。
- 「しかし、でかいな……」
- 煉慈さんが赤面しながら、視線を逸らしました。咲さんは露骨に私の胸元を観察しています。
- 「晃弘はあれが立派だからね……」
- 「その辺が反映されるのか。……て言うことは、つまり……」
- 「一番貧乳はりん?」
- 「どういう意味だよ! おまえに決まってるだろ!」
- 「おっと、ケンカを売ったね。君は今たしかに僕にケンカを売りました」
- 「もう……。そういう下品な会話はよそうよ……」
- 「自信のない春人が戦線離脱」
- 「はああ!? 和泉でしょ、体格的に」
- 「戦闘時の僕を知らないくせに」
- 「晃子、言えよ! 一番胸のない女は誰だ!」
- 「それは……」
- 「待って。僕に先に言って」
- 「卑怯じゃん、和泉!」
- 「大きさなんてどうでもいいよー。日本は小型高性能の国じゃないスか。女の子の前で変なケンカすんなよ」
- 「晃弘は下ネタわからない」
- 「わからないよ」
- 「晃子、俺たちはなんの会話をしてる?」
- 煉慈さんに質問されて、私は首を傾げました。
- 「……小型の機械?」
- 「よし。続けよう」
- 彼らはしばらく見た目と機能と性能の話を続けていました。