- 信じられない奇跡が起きた。
- ゆっことデートの約束を取り付けた。
- 「良かったね、先生」
- 「おめでとう」
- 白峰君と和泉君が祝福を贈ってくれた。本当に素敵なかわいい生徒たちだ。
- 「どこに行くの」
- 「IKEA。AVボード重いから運ぶの手伝ってって」
- 一瞬の沈黙の後、二人は拍手をしてくれた。
- 「最高」
- 「IKEAは素敵なデートスポット」
- 「そうかな! そうかな! わー、どきどきしてきた」
- そわそわする僕を見て、二人は頬をゆるめた。
- 「デートが成功するように、シミュレーションしてプランを立てよう。手伝ってあげる」
- 「心強いです、白峰君!」
- 「僕もアドヴァイスしてあげる」
- 「ありがとうございます、先生!」
- 感激しながら、僕は順番に二人の手を握った。
- 椅子に腰掛けた白峰君が、ビジネスマンのように足を組む。
- 「デートは始る前に勝負が決まったも同然。下準備が肝心だよ」
- 「下準備します。大好きです」
- 「まずは食事をする所を……」
- 「前泊」
- 白峰君の言葉を和泉君が遮った。目を丸くして、白峰君が身を乗り出す。
- 「えー。そこからいっちゃう?」
- 「やっとけばデートは成功する。前泊してもやれない関係はデートも無理」
- 「や……、やるとかやらないとか露骨に止めてよ。もー、そういう風に僕とゆっこを見てたの?」
- 「……他にどうやって見ればいいの?」
- 「和泉のプランは特殊だよ。エッチするだけならそれでいいけど、槙原先生はヨリを戻したいんだから」
- 「生徒にエッチとか言われてていいのかな、僕……」
- 僕のぼやきを無視して、白峰君は和泉君にずばりと言った。
- 「そんなんだから、和泉は彼女が出来ないんだよ」
- 「うわ。カチーンと来たな」
- 和泉君は不穏な目つきになった。ソファに腰掛けて、白峰君と同じポーズで顎をしゃくる。
- 「なら、春人のご高尚なデートプランをお聞かせ願おうかな」
- 「ふふん。まずは相手の期待に答えなきゃ。唯さんだって荷物持ち以上のことを、先生に期待してると思うんだよね」
- 「全力で応えます」
- 「買い物がメインだから、買い物でいい雰囲気に持っていきなよ。インテリアを見ながら、さりげなく二人で暮らす風景を想像させたりして……」
- 「ゆっこと暮らす風景かあ。買い物しながら泣いちゃうと思うな……」
- 「止めて?」
- 「他はどうすればいい?」
- 「女の子はおしゃべりが好きだから、ゆっくり座れるカフェに連れて行ってあげる。近くの店をリサーチして……」
- 「退屈」
- わざとらしいあくびをして、和泉君が髪をかきあげた。白峰君がむっと口を曲げる。
- 「退屈させるかどうかは男次第だよ、和泉」
- 「安全運転の車は眠くなるよ、春人。危険を差し込まなきゃ」
- 肩を竦めながら、和泉君はずばりと言った。
- 「そんなんだから、付き合う子全部に振られるんだよ」
- 「ああ……。そういうこと言っちゃう」
- 「待って、待って、ケンカしないで。僕の一生懸かってるから。そんな場合じゃないから」
- 慌てて二人の間に立って僕は仲裁した。
- いくら言い争ったって、どっちもモテ系男子だ。僕ほど深刻じゃない。
- 「そういうの後にして、もっといいネタください」
- 「大事なのは、優しくエスコートすること」
- 「どきどきさせることだよ。IKEAを吊り橋の上にして」
- 「計算で不安にさせるのは良くないと思うな」
- 「計算で退屈にさせるよりマシ」
- 「絶対、和泉より先に彼女作ってやる」
- 「いいよ。そして、僕より先に振られるんでしょ」
- 「振られないよ、今度こそ!」
- 「僕だって空いてる短縮1番をさっさと埋めたいよ!」
- 「どうせ二人とも僕より先に出来るよ! このチャンスを逃したら、次は3年後かもしれないんだよ! 秘策ちょうだい!」
- 「IKEAな時点で終わりだよ!」
- 「出発点、台車と同じだから!」
- 「台車はひどいよ……!!」
- 結局デートは台車で終わりました。