- 「百人一首大会を始めます!」
- 俺の掛け声に合わせて、賢太郎が景気良く吼えた。賢太郎はいい犬だ。
- 幽霊棟のテーブルには百人一首かるたが並んでる。俺のチームは兄ちゃんと晃弘と春人。敵は槙原先生と瞠と煉慈と咲だ。
- 槙原先生と咲は同時に煉慈の背を押した。
- 「辻村君、頑張って!」
- 「煉慈、ファイト」
- 「おまえら、百人一首くらい暗記しておけよ」
- あきれた顔をする煉慈の隣で、瞠が手首を回している。
- 「俺も暗記くらいしてますよ。ちょろいもんですよ」
- 瞠はやる気だな、と俺は身構えた。かるたの並び順を覚えようとして、目が本気で札を追っている。
- 瞠はこういう勝負に強い。だけど、大丈夫だ。俺のチームには兄ちゃんがいる。
- 「兄ちゃん、俺らだって負けないよな」
- 「ああ。とりあえず、清史郎。おまえは札に飛び込め」
- 「俺、覚えてないよ?」
- 「霍乱要員だ。晃弘、おまえは暗記してるだろ」
- 「はい」
- 「おまえが主戦力だ。煉慈と瞠に負けるな」
- 「わかりました」
- 打ち合わせに相槌を打っていた春人が尋ねた。
- 「俺は?」
- 「春人はとろいからな……」
- 「むかつく! 茅、見つけたら俺に譲ってよ」
- 「いいよ」
- 「敗戦フラグが……」
- にこにこしてる晃弘の隣で、兄ちゃんが頭を抱えている。俺はチームのためにスパイになった。
- 槙原先生のチームの打ち合わせに聞き耳を立てる。
- 「レンレンは真ん中より左取って。俺は右側取って行くから」
- 「わかった」
- 「村雨は絶対取ってよ」
- 「寂連法師の歌だろう? 寂連法師は御子左家の……」
- 「そういうのいいから」
- 「僕は何をすればいい?」
- 「僕は?」
- 「野次」
- 瞠の指示に槙原先生と咲は目を輝かせた。二人とも得意そうだった。
- 俺たちは位置について、勝負の開始に身構えた。
- 新年初の勝負だ。負けるわけには行かない。
- 「兄ちゃん、勝って!」
- 「ああ」
- 「ひっこめー!」
- 「そうだそうだ!」
- 野次はすでにエンジンがかかっている。
- 読み手として呼んだ斉木が、俺たちの顔を見渡して咳払いをした。
- 「ほな、はじめます。あさぼらけー……」
- 「はい!」
- 「はい!」
- 「はい!」